2月18日(水)

目が覚めて汗をかいている。昨日もそうだった。体を斜めにして、これまでとは違う場所に接面させた。するといい気持ちで、手負いのキャッシュのように、いい気持ちじゃ、と呟いて眠りに戻った。 起きてアイスコーヒーを淹れると岸本さんとのミーティングで、終えるとキッチンに行ってうどんを茹でた。遊ちゃんが多摩川がどうのと言っていて、そんなところに行ったら熊が出るよ! と僕は言った。遊ちゃんは明日から出張で岩手で、そういえば熊は、と思い、遊ちゃんが調べると相変わらず出没していることが知れた。まったくニュースにならなくなったものだ! と僕は言った。

午後、引き続き数字を見たりグラフをつくったりして、意味をなすものも、何も伝わってこないものもあった。とにかく、見続けることが大事なのだろう。すると、ある日、何かが見えてきたりするのだろう。 夜番のために家を出、電車に乗ると唐突に火事が発生した、「納屋の二階が、まるで火薬でも詰めこんであるみたいに、いっせいに火をふいた」、暗い夜の中で強烈な明るさが鮮明に浮かび上がって、ダールとジュエルががんばった、「火事の音も今では、おさまって、川音みたいにひびく」とあって、火事が収まると川音みたいな音になるのかあと思い、初台に着くと佐藤くんと引き継ぎをして夜番。今日も暇。数字を見たり、組み立てたりする。静かに終わるが電車に乗るとまた火事が復活して「お棺は直立して、火花が雨とふり注ぎ、まるでその接触から別の火花が生じでもするみたいに、またぱちぱちと飛びちった。それから、はずみがついて前へつんのめる、ジュエルも、奴の上にふり注ぐ火花も一瞬突風にあおり立てられ、奴の姿はうすい焔の円光につつまれたように見えた。お棺は止まりもせずに倒れ、またつっ立ってから止まり、それからゆっくりと前倒しになって火ぶすまの中につっこんだ」とあって、これは、怪異? 何が起こってるんだ? とわからないまま読んで、キャッシュが「ある意味では、ダールが焼こうとしたんは、ジュエルの大事な馬じゃったともいえる。が、あの河を渡る前にも、また後にも一度ならず考えたんじゃが、かりに神様がおれたちの手からお袋を取り上げて、きれいに始末をつけて下さったらさぞ有り難いことじゃろうと思うたし、ジュエルが河の中からとり戻すために頑張った時には、何か神様に逆らっとるような気がして、それでだれか一人がやらにゃならんことをダールが見ぬいて、やったんで、ある点ではええことじゃったという気さえしたもんじゃ」とあって、やらにゃならんこと? とわからないまま読んで、火葬しようとしたということなんだろうか。ともあれ、奴らと、アンスと、ジュエルがダールを押し倒して押さえた。

ひどかった。ひどいことじゃった。いんちきな仕事はそのままじゃすまされん。そんなことはできん。おれはダールに話そうとしたが、ダールはただ「お前ならいうてくれると思ったが。いやなにもおれが……」といってから、げらげら笑い出した。もう一人の奴がジュエルを引き離すと、ダールはそのまま地面に坐りこんで、げらげら笑った。 おれは話そうとした。おれが動けさえしたら、せめて起き直りでもできたら。が、おれが話そうとすると、ダールは笑うのを止めて、おれの顔を見上げとった。 「おれに行けっていうんか?」ダールはいった。 「そのほうがいいじゃろ」おれはいった。「向こうのほうが、静かで、厄介も何もないじゃろし。そのほうがいいじゃろ、ダール」おれはいった。 「そのほうがいい」ダールはいった。またげらげら笑い出した。笑うんで、しゃべれんぐらいじゃった。地面に坐りこんで、おれたちはダールをじっと見て、ダールはげらげら笑うとった。ひどかった。ひどいことじゃった。笑うことなんて、何一つあるわけはねえ。人間が汗水たらして作り上げ、自分の汗の結晶を貯めこんだものを、わざわざ叩きこわして、いいはずがねえんじゃから。

ウィリアム・フォークナー『死の床に横たわりて』(佐伯彰一訳、講談社)p.256

思い出した! 初めて、この小説が二度目であることが感じられた瞬間というか、これまでびっくりするくらい何も思い出さずに再読を続けてきたがここで初めて思い出してここは覚えている。狂気というのは印象に残りやすいのかもしれない。この前後の、「時には、人のことをどうやって狂人じゃと言い切れるもんなのか、判らんような気になる。時には、人間にはほんとうの狂人も、ほんとうの正気も一人もおらんので、ただほかの連中がそういうんできまるような気がする。何をやるかというより、ほかの大部分の連中がそれをどう見るかできまるようなもんじゃ」という249ページの箇所と256ページ終わりからの「が、人のことをどうやって狂人じゃと言い切れるもんか、判らんような気がするんじゃ。どんな人間の中にも、もう一人別のもんが住んどって、こいつは狂気じゃとか正気じゃとかを通りこしてしもうて、自分の狂気の振舞いも正気の振舞いもただじっと見ておって、どれもこれもおんなじ恐怖と驚きで見とる、そんな気がするんじゃ」のところが、前者は赤ペンでぐるっと囲われていて、後者は青ペンでぐるっと囲われていた。それにしても棺をつくるときもそうだったがキャッシュのこだわりというかキャッシュがこだわるのはここでも仕事の誠実さと関わるところで、キャッシュは仕事人だ。僕は今日はラーメンだ。 スーパーに行きラーメンと豚肉を買って、シャワーを浴びるとつくり、豚肉、キャベツ、長ネギ、人参、舞茸を炒めたやつ、小松菜とほうれん草を茹でたやつ、ゆで卵、というラーメンとライス。パレスとバーンリーの試合の続きを見るとストランド・ラーセンがもうひとつ決めて、なんとなくホークスから巨人に移ったリチャードを思い起こさせるところがあり、活躍をうれしく思った。そう思っているとバーンリーが大逆襲で40分、44分、そしてアディショナルタイムにも決めて一気に逆転してびっくり。ラーメンはやっぱりこってり。おいしく食べると今日もそんなに間を置かずに入団してフォークナーで、ダールはジャクソンにいったとヴァーダマン。

2月19日(木) ↓