2月23日(月)

もともと12時に着くように行こうと言っていたが、起きられず、あと30分、あと10分、と言っていたら11時になった。今から出たら12時半くらいだろうか。でもそれでいいだろう。家を出、少し歩くと遊ちゃんが、蟹入れた? と聞き、忘れていた。戻り、蟹をリュックに入れた。伝え聞いていたとおりのポカポカの陽気で、いつもの格好だったがコートは羽織らず、手に持った。首のやつも次第に暑くなっていった。22度とかになるのだそうだ。

新宿経由で千駄ヶ谷に行き、千駄ヶ谷という駅は馴染みがない、数えるほどしか来たことがない、思い出せるのは、器を買いにshizenに行ったときのことと、大学時代に能楽堂に行ったときのことぐらいだった。何かと広々とした、その欠損の印象が何によっているのかはわからないし実際にそうだとも思わないにせよ本来あるものがぽっかりと欠けているという印象も与えてくる駅前に出ると遊ちゃんは、渋谷区が好き、と言った、僕も渋谷区は好きだ。 扁平な大きな体育館らしき建物のある敷地に入り、突っ切るように歩いていった。右側の体育館の横のガラスからは半地下のところにプールが見えて、左側には陸上競技の練習場があって、人が走ったり、跳んだり、身を屈めたりしていた。明治公園はその続きにあるのかと思っていたがいったん外の道路に出て、坂を下りていくと今度は国立競技場的な雰囲気のさっきの体育館よりもずっと大きそうなスポーツ施設的なものが前に現れて、高さよりも、コンクリートの壁が左右どこまでも伸びていく感じが強く迫ってきて、今は明るい時間だからまだ明るさがあるが、夜になったら雰囲気が変わりそうだ、屋根もあるし、快適そうだ、スケボーをする人だったらスケボーをしたくなりそうだ。喫煙所なんかはないよなあと思ってセンサーを立てながら歩いて、代々木公園とかはいまだに喫煙所を設けてくれているので、ある可能性は捨てきれない、と思いながら歩いて、そのコンクリート壁に沿って歩いていくともうひとつ信号を渡ったところが会場の明治公園のようで白いテントがいくつも見えた。喫煙所のなさそうな、クリーンそうな公園だった。地図を見たが、やはりそういったマークは見つからなかった。諦めて公園の中に進んでいき、公園全部が読の市というわけではないみたいで、遊んでいる人たちが大勢いた。芝生があって、こたつゾーンがあって、こたつがいくつもあって、今日は暖かいからこたつに入らなくていいが、寒い日は、こたつに入れたらいいだろう、と私は考え、その向こうに同じ向きに並んだ椅子があってそこに人が座っていて、人々の視線の先にステージがあって何やら人がしゃべっていて、トークイベントがおこなわれているらしい。あとで僕が行くところがきっとあそこなのだろう。屋外というのは声を飛ばしにくいものなのか、音量は控えめで、声が発せられていることはわかるが、何が話されているかはわからなかった。 白いテントのところに着くと、どのテントにも人が群がっていて、人が多いことは想像していたが、人が多いとはどういうことなのかは想像していなかったことがわかった。 とりあえず花田さんに開店祝いの蟹のオブジェを渡そうと蟹ブックスのブースを探すことにして、テントに沿って歩いて、本屋Titleのブースがあって辻山さんがいた、B&Bが見えて覗いていると伊藤さんがちょうど出てきて、こんにちはをして、伊藤さんは3日ともいるそうで、ずいぶん売れる、昨日は店まで一度本を取りに戻ったということで、明治公園はどの駅からも微妙な距離で、なんともいえないアクセスだが、そういう補充とかは大変そうだ、というか、どの店も、どうやって搬入しているのだろうか、車だろうか、レンタカー代と駐車場代だけで全部消えたりはしないのだろうか、そう思いながらぐるっと一周したが蟹ブックスは見なかった。いったんアイスコーヒーを買うことにして、遊ちゃんは一度来たことがあって勝手がわかっているようだった、建物の中に入ると、おしゃれな雰囲気で、僕は飲食物を出す場所があると訊いたときは代々木公園の、昔ながらの飲食物提供施設というか、青と白の紙のカップでビールを出すような、ああいう場所をイメージしていたが、まったくそんなふうではなく、パドラーズコーヒーみたいなところだった。コーヒースタンドでアイスコーヒーを買って、遊ちゃんはお腹が空いたそうで、食べ物屋さんのほうに行ってスコーンみたいなものを買った。もうちょっとちゃんと食べようと思っていたが、2000円とかするハンバーガーだったそうで、スコーンみたいなやつにしたそうだ。アイスコーヒーはすこぶるおいしかった。それで蟹ブックスを探すためにもう一周したが、やはり見当たらなかった。マップを配っている人がいたのでマップをいただいて蟹ブックスを探すと出店日は昨日とおとといで、今日は出店していないことが知れた。とうとう渡せるかと思ったが、今日も渡せなかった。そう思っていると声が聞こえて振り向くと青山ブックセンターの山下さんで、めちゃくちゃお久しぶりで、めちゃくちゃお久しぶりですねと破顔した。山下さんはおとといが百年の樽本さんとのトークで、ふたりとも好戦的な話をしそうな気がして、どうでしたかと尋ねると、みんなそう言うんだがと山下さんは苦笑い。和やかな時間だったそうだ。 山下さんは明らかに以前よりも背が高くなっているように思えて、三度ほどそう言うと、付き合ってくれたのか、靴底が厚いんだ、というようなことを、靴を見せて言ってくれた。なんの流れでだったか「積読チャンネル」の話になり飯田さんのことになり、飯田さんと山下さんと僕で一度、『宣伝会議』とかの鼎談で、ABCの広い会議室のようなところで話したことがあった。どういう顔合わせなんだろうと思いながら赴いて、広い部屋の一角で、これは何を話す場なんだろうと思いながら話した、その光景だけ覚えていて、山下さんは話したこともよく覚えているみたいで、飯田さんはあのときの話しぶりが見事だったから、今「積読チャンネル」でこんなふうになるのはさもありなんという感じだ、というようなことを言っていて、僕は、なんにも覚えていなかった。 そろそろ時間だったのでトークイベントの場所に近づくと、人と目が合い、きっとこの人がそうなんだろうと思って近づくとそうだったみたいで、今回声をかけてくださった函館蔦屋書店の北村さんで、挨拶をした。そうしているとさっき見かけた辻山さんと、それからフラヌール書店の久禮さんがいらして、久禮さんははじめましてだった。辻山さんは手に何冊か本を持っていて、今日なにか持ち物があったんだっけかと思ったが、そういうわけではないらしかった。話していると数メートル先にいる人の声が聞こえたような気がして、それは風に乗って、「阿久津くん」と言っているような気がして、見ると、あ、と思って、目が合い、数秒間見たが、なんの反応もなかったので、外して、僕の聞き間違いだった。そう思っていたら少しして声を掛けられて見たらやっぱりさっき目が合った人で鈴木さんだった、涼美さんだ、福田ゼミで一緒だった。やっぱり鈴木さんだ、お久しぶりですと言ってケラケラと話していたら、ちらっと後ろを見たら辻山さんたちはもうステージのすぐ脇にいて、こちらを見ていて、時間であることが知れて、なのでそっちに行った。ステージに上がり、マイクチェックをすると一回下りて、また上がって、それでトークイベントだった。 今日は「読書からはじまる」というテーマで、司会の北村さんが話すのを聞いていると読の市自体が、読むことや書くことがテーマなのだそうで、それはフヅクエはうってつけだ! と盛り上がる気持ちになって、しかし今日はどんな話をするのだろう、と思いながら臨み、顔を上げると空は晴れていて、風がある日で、芝生には椅子に座った人々がいて、椅子までは距離があり、もうちょっと近いほうが話しやすそうだと思う。屋外で話すというのは初めてかもしれない、芝生の端っこのキッチンカーの音が重く響いていた、マイクを持って話しても、どれくらい声が増幅されているのか手応えがわからない感じがあった。みんなでわいわい話すというよりは、順番に答えていくような感じだったので、自分が話していないときは人の話を聞きながらも気の抜けた状態になって、空を見て、それにしても気持ちのいい午後で、天国みたいだった。

終わって、しばらく立ち話とかをして、遊ちゃんを見つけ、帰った。遊ちゃんはこのあと美容院に行く、髪を染めてみるのだそうで、ハイライトを入れるということで、ハイライトというのはインナーカラーのことかと聞くとハイライトはインナーカラーではなくハイライトなんだそうで、そうか、と納得して、なんだかすっかり休日の午後という感じで、僕は腑抜けになっていた。いい時間だった。 新宿で別れて初台に行き、丸亀製麺でうどんを食べるとシオールに行って、体がぼんやりと、休みの日に運動をして帰ってきてまだ午後が長くあるみたいな、そんな感じでぽかぽかとしていて、それは次第に重めの疲れとなっていって、5時が近づくと店に行き、夜番だった、今日も佐々木さんがいて渡部さんがいた。今日は昨日おとといほどは忙しくない感じで、もうひと伸びしてほしいところだった、佐々木さんが帰り、渡部さんが帰った、引き続き真剣に働いていると、もうひと伸びしていく感じがあって、最終的には足りなかったが最低限という感じに着地した。客数を見、客単価を見る、どこをどう伸ばせばいいのか考える。試してみたいことはいろいろあった。 ビールを飲んで片付けをすると帰ってスーパーで肉とか。PIVOTの松木玖生インタビュー回を聴きながら歩いてこれも面白い話だった。家に着いてシャワーを浴びると続きを聴きながらラーメンをこしらえてゆで卵、キャベツピーマン人参長ネギ豚肉炒め、食べながらはリヴァプールとノッティンガム・フォレスト。食べたら布団で、ハイライトを入れた遊ちゃんの髪を見ようと、眠っている遊ちゃんの頭の近くで顔をうろうろして、暗くてあまりわからなかった。本を開いて、サトペンが決闘みたいなことをやっていた。スペルを調べたら「Sutpen」だった。

2月24日(火) ↓