4月1日(水)
遊ちゃんが家を出るタイミングで少し目が覚めて、早く店を確かめて安心したいしすぐに出てもいいだろう、早く始動すればたくさんのことを午前中にやれる、それは気持ちのいいことだろう、しかしものすごい眠気だ、と思って時間を見るとまだ6時になっていなくて、あの人は、と私は考えた、遊ちゃんのことだ、あの人は、とんでもない時間に家を出るものだ、そう思って本を拾って、シュリーヴかクェンティンが話し続けるのを1ページか1分くらい読んで、また眠りに落ちて、起きたら昼番の日に起きるべきとおりの時間で、準備をすると家を出て今日は雨だった。
4月。今日からたくさんだ。値上げをやり、今日明日とLINEで雨の日クーポンだ、紙で配るクーポンも今日からだ、Readsでフヅクエのことを知ってもらうポップアップの表示も今日から始めた、Reading Companyに山崎実業が加わるのも今日からだ、盛りだくさんだ。どうなっていくか様子を見てみようだ。 様子といえばというところで、初台に着くと少しだけ緊張する気持ちになり、ビルの階段を上がると、そこにはいつでも誰でもどうぞの扉があって、開くと、いつもと変わらない、平和な店内があってよかった。シャッターの不具合を直し、これはインシデントであるということをみんなに強く周知しないとと思い、アイスコーヒーを淹れると店の準備を始めた。 ご飯食べ、店開けて、今日は開店から複数の予約があって平日にしては珍しい。てきぱき働き、予約の方々はみな1時間で帰られてこれも珍しかった。そのときに、次回よかったら、と言いながら「じっくり割」と書かれたクーポンを渡せるのはなかなかよくて、しかもそこに印字された割引後の価格が今日の値段と近かったりすると、なおのことよくて、あとちょっとでこれだけゆっくりできる、と思えるのはいいことだった。
ぽつぽつと働いていると糸数さんが来て、それから遊ちゃんから発熱の知らせが来て、9度とあった。そのあと、9度8分とあった。9度8分! なかなかない高さだ。病院に行ったら6時ごろもう一度来てくださいとなったらしく、「早く薬漬けになりたい!」と遊ちゃん。僕はドトールに行ってページ数割の挟み込みチラシのデザインのやつをやり、クロちゃんにFigmaのところにつくらせて、それをベースみたいなものとして扱ってイラレで編集していくのが結局一番かもしれない。発注能力が低いということだ。 店に戻って糸数さんに休憩に出てもらい、そのあいだに精力的に仕込みを進め、休憩が終わると帰宅で、笹塚の乗り換えでふっと目を上げたら「日本、イングランドに初勝利!」みたいなニュースがサイネージに流れているのを見てしまって、今日はここまで、Yahooニュースは開かないようにして、Xもエゴサの画面以外は見ないようにして、はてブすら総合カテゴリは開かずにテクノロジーカテゴリだけを見るようにしていたのに、この一瞥でそれらの努力が水泡に帰した。むしろこの先、他のサイネージとかで見かけたらありがたい、と思いながら帰ったがそんな場面はなく、本当にあの一瞥だった。苛ついた。あの瞬間に目を上げなければ、あの瞬間に流れていなければ、と思うがしょうがない。しかし勝ったのか、それはすごい、と思ってスーパーで鶏肉や野菜を買い込んで帰り、郵便ポストを開けるとレターパックライトがあって、見ると弁護士からだった。来週が調停で、そろそろだろう、と思って身構えていた。少し緊張しながら家に入り、遊ちゃんはタミフルとカロナールを飲んだところで、発熱から間もないのでインフルエンザかどうかはわからないそうだ。薬を飲んだら楽になってきたらしい。その話を、遠く離れた位置に立って聞いて、今日は別に寝たほうがいいのだろう。
居間で、用意というか心の準備が整うとレターパックを開封し、するとずいぶんな枚数の紙があった。どんな反撃があるのかと、心臓がやや早鐘を打つのを感じながら見ると、大半は諸指数の上昇についての資料で、これだけいろいろ上がってるんだから値上げは妥当だ、ということだった。近傍同種建物との比較も新バージョンであり、まだ見ない、盛り上がっちゃうからまだ見ないが、「築45年だが適切に修繕されている」みたいなことが書かれていて、経年での減価が「適切に修繕」の一言でクリアできるなら弁護士なんて要らないだろう。要らないだろうというか、要らないだろうwww だ。なんだこれはwww いけない、盛り上がってしまう。なので書類は置いてまた今度。家賃をグラフ化するのが楽しみだ。しかし面倒だ。ウケながら、クソ面倒だ、クソのような愚かさと付き合うことのクソのような面倒さ。誠実さの一切を捨てた人間を見なければいけないことの悲しさ。
部屋に戻って仕事をしていると、汗をかいてきた、すごい汗だ、という声が聞こえたのだったか、Slackで来たのだったが、そうらしく、ものすごい発汗をしているらしかった。それに連れて楽になってきたようだ。よかった。それから少しすると静かになり、見ると眠っていた。早く回復しますように、と祈ってから仕事に戻り強制サブタスク化はやはりありがたく、これまで進められなかったものが進んだ。
9時からは東野夫妻とのZoomで、Zoomは少し久しぶりに開いた気がする。Claude Code相談で、華南子がNotionにハマったときと同じ展開だ、調布に行って帰ってきたらNotionと言い出した、まるきり同じ展開だ、と東野さん。僕もですね、たしかにAIの登場は大きな出来事だったが、けっこうNotionやるぞ、みたいになったとき以来の感覚あるんです、と僕。 ふたりが何を所望しているのかを聞き、全部やれますよ、Claude Codeならね、と答えて、以前も、全部やれますよ、Notionならね、と言った記憶が蘇った。そして、やっぱりこれは、始めてみないと、というところで始めるところを伴走し、僕の言いなりになってターミナルの画面をぽちぽちと進んでいく華南子ちゃんは、振込詐欺の被害者になっている気分だとのこと。僕はちゃんとClaude Desktopを体験していないにもかかわらず誰しもがVSCode拡張で使うのがいいと信じ込んでいるようで、だから華南子ちゃんにもそれで始めてもらった。なんでもClaude Codeに聞けばいいけれど、僕で答えられることはなんでも答えるからなんでも聞いてね、と伝え、一週間後とかに状況共有の時間を設ける? と尋ねると、その献身性はなんなんだと笑われた。Notionのときもそうだったけど、なぜだかこういうことは、いくらでも手伝いたくなるらしかった。快適さを欲望しそれに手を伸ばそうとする人にはちゃんと快適になってほしい、という思いが強烈にある。欲望することと手を伸ばそうとすることがたぶん肝だ。 終えると11時でけっこう時間使っちゃった。なんの後悔もない。いい時間だった。風呂を沸かし、浸かるとサッカーを見始め、イングランドのスタメンを見て、全員わかる、本当はコンサだけわからない(アストン・ヴィラ所属とのこと)、すごいメンツだ、このメンツに日本が勝ったのか、と思うと、それはすごいと思う。ケインもライスもサカもいないとしたって、パーマーもフォーデンもいる。ピックフォードもオライリーもグエイもベン・ホワイトもアンダーソンもメイヌーもロジャーズもゴードンもいる。すごいことだ。サイネージの見出し一瞥ではスコアも展開も知ることはなかったので、勝ったことだけを知って見ていると、23分に三苫が決めて、パーマーのプレーは軽かったようにも思ったが、そうだとしてもそこからの三笘中村三笘の展開はきれいだった。つまり、今日は23分は風呂に浸かっていたわけで、これは長めだった。 上がると続きを見ながらオーブン焼きの準備をし、先に準備が終わったから焼き始めてもよかったわけだが、焼き時間35分の仕事時間がほしいと思って前半終了まで見届け、終えるとオーブンに入れて、35分のタイマーをかけて部屋に戻った。それで35分働いて今週のClaude Code使用制限が刻々と近づいていて、これはどうなるのだろうと思う。それにしても早くないかとも思うが、検索してみると実際そういう不満の声というか、改悪されているという声がここのところ高まっているみたいだった。 時間になってキッチンに戻ると焼き上がり、鶏肉、キャベツ、玉ねぎ、人参、カブ、ブロッコリー、ナス、小松菜。おいしく、後半を見、途中からはひたすら攻め込まれる展開で、こういう中で少ないチャンスで追加点を取ったりしていたらかっこいいと思ったが、そうはならず、泥臭く、跳ね返し、敵陣に蹴り込むのが精一杯、という展開で、それをやり通すということのかっこよさがあった。やはり個の力は違うというか、誰にしても、簡単に剥がされることが多く、当然個々のクオリティは違うだろう、一緒だったらとんでもないことだ、個は劣る。でもその中でブラジルに勝ちイングランドに勝ちというのは、何によってもたらされているのだろうか、よほどコレクティブということなのだろうか、と思いながら見、しかししんどい時間帯だ、と思うが、イングランド側から見たらマグワイアとダン・ヴァーンのパワープレー一辺倒なわけで、攻める側もしんどいというか、みっともない攻め方だ。日本が勝った。
食後は仕事に戻り、気づいたら3時で、最初はソファと思っていたが、タオルケットを取りにいくと遊ちゃんが起きて、ソファじゃ疲れる、すぐそこに華南子ちゃんたちが使う布団があるからそれを敷くのがいい、そう言うのでその通りにすることにして、自室に布団を敷いて寝そべり、明るい部屋だ、フォークナーを読み、佳境を迎えてきた感があって「だけどそれでもまだ恋じゃない」とクェンティンが言って、ボンはヘンリーとともにジューディスたちの屋敷に行った。サトペンとの対決を望んでいたがサトペンは不在でメンフィスかセント・ルイスあたりへ行ったようだ、ということだ。家族たちは気にかけていなかった。
彼だけは、ボンだけは、サトペンがどこへ行ったのかわかり、自分の心に 間違いなく、彼にははっきりしなかったのだ。だから確かめるためにあそこへ行かざるを得なかったのだ といい、ほとんど人に聞こえるような大声で、あまりにも高くあまりにも口早に一人ごちたので、おそらく自分にもその考えを聞き取ることはできなかっただろうが だが、もしやと思ったのなら、どうして自分に話さなかったのだろう? 自分だったらそうするだろう。先ず最初に、母親によってよごされたり、けがされたりしているとはいえ、同じ血を持った人間のところへ行くだろう と思い、今度も大声で口早に そうだ、たぶん彼は先に出掛けて自分を待っているのだろう。彼がここになんのことづけも置かなかったのは、ほかの連中に感づかれたくなかったからで、彼には、自分が彼のいないのを知ったらどこへ行っているかすぐにわかるということが、わかっていたんだ ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!(下)』(高橋正雄訳、講談社)p.177
ボンの声高な口早なひとりごとは周囲の人間には聞こえないようだった。だんだんと積み重ねられてきた物語の分厚さみたいなものが迫ってくる感じになってきていて、これは血腥い話だ、なまぐさいというよりも腥いとしたほうがふさわしい感じの、血腥い話だ、と私は思う。 今日は明るいまま眠る未来もありそうだと思っていたが、眠くなると殊勝にも立ち上がり、部屋の明かりのスイッチを消した。布団にあらためて入り、ぺらぺらした、軽い、寒々しい布団だった。重さがほしかった。